四大河の源流域 甲武信ユネスコエコパーク

甲武信ユネスコエコパークの特徴

【目次】

 

甲武信ユネスコエコパークのエリア

甲武信ユネスコエコパークのエリアは、荒川、多摩川、笛吹川(富士川)、千曲川(信濃川)等の我が国有数の大河川の源流域であり、山肌を覆う深い森は、近接する首都圏や周辺地域の水源としても古くから守られてきました。
この地域は、山岳や森に加えて御岳昇仙峡等の渓谷が、四季折々に彩りを変える日本的で素朴な美しい自然に恵まれており、首都圏近郊にありながら、自然度が高く、連続性があり、生物多様性に富む貴重な環境が広く保全されています。
こうした優れた自然環境をフィールドとして、様々な調査・研究が行われており、中でも広大な森林を有する東京大学の秩父演習林は、100年に渡り、森林生態系に関する教育研究活動を幅広く展開してきています。

また、それぞれの地域の長い歴史を背景とする文化の多様性も高く、山間部や麓の居住地では、古くから人々を楽しませてきた民俗芸能が保存・伝承され 、金峰山や両神山、三峯神社、秩父神社等 の山岳・神社信仰にまつわる多様な文化が、今もなお息づいています 。

 

甲武信ユネスコエコパーク ゾーニング図

甲武信ユネスコエコパーク ゾーニング図

核心地域

核心地域の総面積は13,364ha に及び 、最も広く中心となるのは、甲武信ヶ岳( 2,4752,475m) (写真 一帯から雁坂峠( 2,082 m)、笠取山( 1,953 m)、大洞山(飛龍山)( 2,077 m)、雲取山( 2,017 m)に至る稜線部及び岩岳( 1,520 m)一帯です。これら一連の地域の西に国師ヶ岳( 2,592 m)及び瑞牆山( 2,230 m)を配した金峰山( 2,599 m)一帯があり、両地域は稜線により結ばれています。この地域の南北に両神山( 1,723 m)一帯、大菩薩嶺( 2,057 m)一帯、乾徳山( 2,031 m)一帯、御岳昇仙峡 (写真 一帯の核心地域が位置します。

また、核心地域は、主に自然公園法により長期的な保護が担保されてい ます 。自然公園法では、特に厳重に景観の維持を図る必要のある地区を特別保護地区、それに準じた保護が必要な地区を第一種特別地域としており、核心地域はこれに重なるように設定しています。
なお、この地区では自然公園法に基づき様々な人為的行為が厳格に規制されてい ます 。

このほか、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」と言う。)により、狩猟が認められない鳥獣保護区、水源涵養等公益目的を達成するため森林法より指定される保安林等が地域内に広く分布しています。

 

緩衝地域

緩衝地域の総面積は70,858ha に及び、秩父多摩甲斐国立公園の第二種特別地域、第三種特別地域及び普通地域に重なるように設定していることから、核心地域と同様、主に自然公園法により保護が担保されています。また、同地域は核 心地域に隣接し、これを取り囲むように設定しているため、バッファーとしての機能を有 してい ます。
緩衝地域のうち国有林については、管理経営法に基づく地域管理経営計画を策定し、森林の多面的な機能を発揮するための保全・管理を行っています。

このほか、核心地域と同様、鳥獣保護管理法により狩猟が認められない鳥獣保護区や、森林法より指定される保安林等が地域内に広く分布して います 。緩衝地域は、バッファーとしての機能の他、エコツーリズムや環境学習の利活用の場として位置づけられており、様々な団体等による調査研究、モニタリング、教育及び研修が行われていることから、 ユネスコエコパークへの登録を契機に、更なる持続的な利活用の促進に繋がるものと考え ます 。

また、緩衝地域の約 45 %が、第 3 次 山梨県 県有林管理計画( 2016 2025 山梨県)に基づき管理される山梨県有林です 。国内の公有林としては FSC 森林管理認証を初めて取得( 2003 )しており、持続的な森林資源の利活用が図られています 。

移行地域

移行地域の総面積は106,381ha に及び、秩父多摩甲斐国立公園に隣接し、自然資源の持続可能な利活用が行われ、住民の社会経済活動がある地域を基本として設定しています。
移行地域は、主に秩父多摩甲斐国立公園外にある居住区を設定していますが、地形的には大部分が山間盆地や山間地であり、その地形的制限から第一次産業を主とした土地利用がなされています。社会経済活動の基盤が自然環境や天然資源に負うところが大きく、自然環境の保全と調和した持続可能な発展を念頭においた取り組みが行われています。

山梨県小菅村では、 村内の有志グループが、伝統的な竹カゴ作りの手法をヒントに林地に残された丸太の根本を活用した「きおび編み」を開発しました 。未利用資源と伝統的な手法を組み合わせた地域の新たな特産品として注目されています。
埼玉県秩父市では、 NPO 法人 秩父百年の森や菓子職人らが、秩父地域に豊富に見られる複数種のカエデから採取した樹液を原料としたメープルシロップやキハダの皮の苦味を活かしたジュース等、地域の森林資源を活かして現在のライフスタイルに合った商品を開発しています。

山梨県側の峡東地域では、江戸時代以前からブドウの産地として知られ、ブドウやモモ、カキ等の果実は「甲斐八珍果」として珍重されてきました 。現在も優良な果樹園が広がり、ブドウやワインの一大産地となっており、全国的な知名度も高いです。この地域の農業は、自然の地質・気候を活かした産業として、日本固有の品種である「甲州ぶどう」を守るなど、持続可能な形で進められています (写真 。また、世界で初めてブドウの種なし化を実現した地域でもあります。

 

地域における相互作用

多摩源流大学実習風景

多摩源流大学実習風景

四大河の源流部に当たる 核心地域の森林環境が保全されることにより、森林の水源涵養機能が醸成され、下流の緩衝地域及び移行地域における水辺の生物の生息・生育環境が守られ、良質な水が育まれることにより飲み水・各種産業用水の確保が可能となります。また 、 環境教育にも役立てることができ、渓流を利用した釣りやトレッキング、エコツーリズム等の観光も可能になるなど、河川流域の上下流として深い繋がりが見られ、この繋がりに焦点を 当てた 取り組みが各地で行われています。
山梨県小菅村では、地方自治体と都市部の複数の大学、NPO法人多摩源流こすげが協働し、上 下流域に暮らす人達の交流を促し、山村地域の持続可能な振興を図っています (写真 。また、埼玉県や東京都で暮らす人々の水源地、秩父の森を買い取る活動「水のトラスト」や、 埼玉県 秩父市、 山梨県 山梨市、 長野県 川上村による源流域の自然環境の保全等を目的とした「甲武信源流サミット」、東京都水道局によるボランティアで森づくりを行う多摩川水源森林隊、様々な民間団体による水源林の保全と育成等、全域で水の繋がりを重視した取り組みが展開されています。

 

植物相

甲武信ユネスコエコパークの植物は、比較的温暖で夏季を中心に適度の降水がある気候と肥沃な土壌に恵まれ、急峻な地形にも関わらず生育状況がよいです。核心地域のうち、標高2,500m前後の高山帯ではハイマツ、標高2,000m前後の亜高山帯ではシラビソやオオシラビソの群落が広がります。
山地帯中心に広がる緩衝地域のうち、乾性な尾根部ではツガ、山腹斜面の適潤な立地ではブナやイヌブナ、谷沿いや凹地形の湿潤な立地ではシオジやサワグルミ等が優占します。
これらの植生は、遷移が安定した極相林であり、全植生に対する極相林の割合は日本アルプスに次いで大きいです。
山頂部や稜線は2,000mを越えており、標高が高いため、山麓の温暖性から山頂部の高山・亜高山性まで標高に応じた植生の垂直分布が明瞭です。
これに加え、豊富な石灰岩地質上ではチチブミネバリやチチブイワザクラ等の固有性の高い好石灰岩植物が生育し、チャート上ではツツジ類等の嫌石灰性植物が多く生育する等、地質や岩石の種類が豊富かつ地域による気象条件の違いが相まり、種の多様性に富んでいます。
さらに、核心地域及び緩衝地域は、首都圏近郊にありながら、その50%に近い地域が人の手がほとんど入っていない原生林で占められています。

動物相

特色ある地層・地質、多様な植生に様々な気象条件が加わって形成された豊かな森林環境を反映した森林性の動物相を中心に、国内でも希に多様な動物相が形成されています。
国の特別天然記念物であるニホンカモシカやツキノワグマ、ニホンジカ等の大型哺乳類、クマタカやノスリ等の猛禽類が見られ、食物連鎖の上位に位置し豊かな生態系を指標する種が確認されています。
また、寒地性、暖地性、高山性、低地性の様々な種が見られることも甲武信ユネスコエコパークの特色です。
例えば、甲武信ユネスコエコパークに生息するサンショウウオは、標高200mから1,000m程度まで幅広く分布するヒダサンショウウオと標高500m以上を中心に生息するハコネサンショウウオが見られます。また、関東地方周辺にのみ分布する準絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオも生息します。
このように分布の異なる3種が見られており、甲武信ユネスコエコパークには多様な生物の生息環境が存在していることを示しています。昆虫相のうち、特にチョウ類は、甲武信ユネスコエコパークの大部分を占める秩父山地の草原、森林、疎林、亜高山等、多岐にわたる環境を反映して、第3回自然環境保全基礎調査(1988 環境省)において、126種という国内で最も多くの種数が確認されています。
このうち、森林の間伐や下草刈りといった里山の手入れによって維持される群落に含まれる特定の植物を食草とする種を中心に24種が環境省のレッドリストの絶滅危惧種に選定(2017)されています。
このように甲武信ユネスコエコパークは、人間活動と調和して生息してきた里地・里山の希少なチョウ類の宝庫ともなっています。

 

甲武信ユネスコエコパーク登録までの経緯

平成29年10月 日本ユネスコ国内委員会※に申請書を提出
※ 日本が推薦する候補地について調査、選考、審査を行う
平成30年3月 国内推薦決定
文部科学省(日本ユネスコ国内委員会事務局)が平成30年にユネスコに推薦する地域として「甲武信」を選定したことを発表
平成30年9月 ユネスコに英文申請書を提出
令和元年5月 承認勧告
ユネスコ人間と生物圏(MAB)計画国際諮問委員会により、「甲武信」については、ユネスコエコパークへの登録を「承認」するとの勧告
令和元年6月 登録決定
ユネスコMAB計画国際調整理事会(パリユネスコ本部)において審査がなされ、6月19日に登録が決定

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